2010年 韓国くるま事情PartⅡ

韓国車で埋め尽くされたソウル・東大門ロータリー。輸入車はほとんど見られない。


プロローグ

2008年12月に済州島へ行ったとき、輸入車は3台しか見かけなかった。1台目はベンツ、2台目はBMW、そしてあとの1台はアメリカのミニバンだったが、そのときは済州島という地域特性だろうと思った。そして、ソウルには輸入車がたくさん走っているんだろうと考えたが、今回ソウルで見たものは、ほとんど済州島と同じだった。
2003~2004年にかけて、イタリア、フランス、イギリスと行ってきたが、陸続きということもあり、イタリアではドイツ車が氾濫していたし、イギリスではそれこそ世界中の車が走っていた。さすがにフランスは保守的な国のせいかフランス車が多かったが、外国車もそこそこ走っていた。アメリカ(ハワイ)や中国(上海・西安)、そしてカンボジアは日本車だらけだった。
6カ国の中で日本車のパーセントが一番多かったのは①カンボジア、②アメリカ、③中国、④イギリス、⑤イタリア、⑥フランスの順であるが、今回のソウル旅行で見かけた日本車は、たった1台、ソウルプラザホテルの駐車場から出てきたトヨタ・レクサス(ハリアー)だけだった。
韓国のTVではニッサン、ホンダのCMを見たが、街ではついぞ1台もお目にかからなかった。まあ、考えてみれば逆に日本では韓国車は滅多にお目にかからない。海を隔てているとはいえ、2009年、世界第2位と第5位の生産台数を誇る、すぐ隣の国の車がほとんど見られないなんて異常としか言えない。

敬遠される日本車、そして韓国車

韓国の自動車会社は5社、ヒュンダイ(現代)自動車、キア(起亜)自動車、GMデウ(大宇)自動車、ルノーサムスン(三星)自動車、そしてサンヨン(雙龍)自動車。このうち民族資本の自動車会社はヒュンダイーキアグループだけで、あとはGM、ルノー、そして中国の上海汽車に買収されている。
1988年(ソウルオリンピックの年)に輸入が自由化されるまで日米欧のモデルをライセンス生産するケースが多く、ヒュンダイは三菱と、キアはマツダ(フォード)と、デウは日産-トヨタ-GMと、サンヨンはメルセデスベンツと提携あるいは技術援助による開発をおこなってきた。なお、自由化といっても日本車の輸入・販売が出来るようになったのは1998年7月からで、しかも8%~10%の関税が未だに掛けられている。(日本へ入る車は0%!)
韓国車はヨーロッパや北米を初め、日本を除くアジア諸国、そして世界中で販売されている。ただ、今までは価格の安さと「日本車の安価な代用品」というキャッチフレーズで売れていたが、消費者の品質に対する要求(とくにアメリカ市場)に応えるべく、高級車を出してきた。しかし、バッジに重みが無いため、こんどは高くて売れないというジレンマに陥っている。また、自動車生産・販売世界第1位となった中国、そしてじわじわと追い上げに入ったインドが、韓国車と同じことを始めだしたので、安さを強みとしていた大衆車も危うくなってきた。
韓国で日本車が売れない理由は、1998年まで日本車は販売されていなかったため販売ルートが無いこと、関税+ウォン安・円高により高価格であること、そして日本に対する過去の歴史感情も見逃すことは出来ない。
逆に、日本で韓国車が売れない理由は、韓国車を扱うディーラーが弱いこと、広告が日本人の感性に合わないこと、見かけは日本車そっくりでインパクトに欠けることと、日本の輸入車ユーザが最も重要視するブランドの重みが全く無いことだろう。
日本でのヒュンダイ車の販売は多い年では3000台ほどあったが、2009年は500台ほどに落ち込み、2009年11月、ヒュンダイ自動車はついに日本での乗用車販売から撤退することを表明した。

ソウル・水原の街で見かけた韓国車

ヒュンダイ・ジェネシス。向こう側のSUVは同じくヒュンダイ・サンタフェ。ドアエッジに青いスポンジが付いているが、新車購入時に付いているものをそのまま付けているのだという。なお、韓国での乗用車のカラーは90%以上が白、黒、グレーである。



 
ソウル市庁前の交差点にて。BMWは韓国では人気があるらしく何台か見かけた。



ソウル警察所有のレッカー車。



市内ガソリンスタンド。レギュラー1650ウォン/L=133円/L、ハイオクが1863ウォン/L=150円/Lと高い。



サンヨン・ロディオス。イギリスの自動車番組で「最も醜い車の歴史を塗り替えた。」「タダでもいらない車」と酷評された。



小さい画像で申し訳ないが手前の黒い車(サンヨン・チェアマンか?)の後にあるのが、5代目のヒュンダイ・ソナタ、その後が6代目のソナタで、韓国では爆発的に売れているそうだ。なお、どちらも一般タクシーだが、ソウルの一般タクシーのカラーはグレーとなっている。



水原・華城へ登る坂道に停まっていた韓国車(車種不明)



なんと夏タイヤのまま。ちなみに4日間で見た限り韓国でスタッドレス等、冬タイヤを履いた車はついぞ見かけなかった。



3代目スズキ・アルトをベースに開発されたデウ・ティコ。年代物である。



2tトラック(車種不明)の窓に描かれたおもしろ顔。屋根の雪から判断して降雪時から動かしていない模様。



ヒュンダイ・グレンジャー。タイヤはもちろん夏タイヤのまま。



デウ・トスカなのだが、シボレーのバッジ付き。この車も降雪時から動かしていない。



ヒュンダイ・サンタモ。三菱シャリオのライセンス生産車。



デウ・マティス。ティコに替わる韓国の軽自動車で、デザインはJ.ジウジアーロ。ヨーロッパで140万台という大ヒットを飛ばした。白、黒、グレー以外のカラーの乗用車はこのマティスとヒュンダイ・クーペぐらい。



ルノーサムスン・SM3。この車もドアにスポンジが。



3代目のヒュンダイ・ソナタ。TVドラマ「冬のソナタ」には、この後の4代目のソナタが登場する。



2代目のデウ・マティス。排気量は800cc~1000ccで、まさに理想的な軽自動車といえる。最近3代目が出たが、ちょっとグリルが派手になってしまった。

エピローグ

ホテルの部屋にあったTV(LG電子製)はケーブルTVが接続されており、40Ch以上の放送局が見られた。その中で「CAR-TV」という局が気になったので回してみると、BMW750iの紹介番組をやっていた。見ると、画面中央にいる男性レポーターが、まるで自分の愛車のように750iをベタ褒めで紹介していたが、こういう車が韓国では人気なのがよくわかった。
まあ、750iは夢の車だとして、韓国で人気のある車は3BOXのオーソドックスなセダンである。それも堂々として、いかにも見栄えの良い車で、周囲に自慢できる車でないと韓国人は我慢できないらしい。その点6代目のヒュンダイ・ソナタは一見ベンツに似たスタイルが受けて大人気である。
マティスのような車のほうが時代に合っており合理的でカッコ良いと思うのだが、どうもそうでは無いらしい。マティスは貧乏人の乗る車というのが韓国人の平均的な考えで、借金をしてでも大きい車に乗らないと優越感に浸れないようだ。
日本にも「いつかはクラウン」なんていう暢気な時代があったが、そんなものはすでに過去のものとなり、今はいかに時代にあったエコ車を開発するかが、これからの自動車会社の生き残る唯一の道となっている。
韓国車のウィークポイントの一つは技術の基礎開発をほとんどやっていないことであろう。これからハイブリッドなりEVなりの車を出してくるだろうが、今の韓国にはそんな技術は無いので、高いロイヤリティを払って海外のメーカーの技術を拝借するのだろう。
世界5位だ6位だといっても、稼ぎは皆ロイヤリティで消えてしまう。韓国車に必要なものはもっと長期的な視野に立って、額に汗する地味な基礎研究、地味な技術開発を行い、他のメーカーにまねられる位の独自の車を開発することである。それが出来なければ韓国車に未来はこないかもしれない。

2010/1/19 chiaki-k 記す     


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