2012年 フ ラ ン ス  く る ま 事 情

パリ、コンコルド広場で見かけた シトロエン2CV (ドゥシュヴォ)。1948~1990年まで387万台製造されたフランスのエスプリとでも言うべきユニークな大衆車。多分、観光用だと思われるが、トリコロールカラーがおしゃれ。よく見ると向こう側に同じ色の2CVがもう一台いる。
全長3830mm、全幅1480mm、全高1600mm、車重495kg、空冷2気筒、排気量375cc(初期)というスペックを持ち、徹底的に合理性を突き詰めて造られたフランスの農民の足、別名「醜いアヒルの子」。 この車が世間に発表されたとき、アメリカ人のジャーナリストの一人は「まるでブリキの缶詰のようだ、ついでに缶切りもつけたらどうだ」と言ったそうだ。

プロローグ

2003年12月29日、私はパリからモンサン・ミッシェルへ向かうバスの中で、バスを抜いて行く車をカウントしていた。カウントした区間はフランスの高速道路A13、パリからカーンまで。車種は乗用車で、カウントしたのはその車が元々設計・製造された国別である。
 国 台 数  割 合 
 フランス車  126台  68.2%
 ドイツ車  44台  23.8%
 日本車  7台  3.8%
 イタリア車  4台 2.1% 
 その他  4台 2.1% 
 合計  185台 100.0% 


そして、2012年4月19日、フォンテーヌブローからパリへ戻るA6号線で同じカウントを実施してみると。
 国 台 数  割 合 
 フランス車  84台  53.1%
 ドイツ車  36台  22.7%
 日本車  18台  11.3%
 イタリア車  11台 6.9% 
 その他  9台 6.0% 
 合計  158台 100.0% 
まあ、一回きりのカウントなので正確性には欠けるが、2003年に7割近くあったフランス車のシェアは5割近くにまで落ちこみ、日本車やその他の国(イタリア、韓国など)の車が着実に増えていることがわかった。
そして、この結果を裏付けるものとして2012年4月にフランス自動車工業会が行ったフランス国内新車販売メーカー別シェアで、フランス車は51.1%、外国車は44.8%、その他3.1%ということで、ほぼ当たっていることが確認できた。
かつてはイタリアと並んで輸入車の制限(非関税障壁)を堂々と行っていた国が、かなり変わってきている。まあ、フランス国内にトヨタが工場を持ったり、日産がルノーの傘下に入ったりしたことも当然影響していると思われる。

フランスの自動車産業とモータースポーツ

大型車や軍用車など特殊な車を除くと、フランスの自動車メーカー、というかグループはたったの2つしかない。一つはルノーグループ。もう一つはプジョー・シトロエングループである。
こうなったのにはもちろん理由があり、第二次世界大戦後実施された税制改革が一番の原因とみられる。戦前から戦後のフランスにはブガッティ(発祥はイタリア)、ファセル、イスパノ、ドラージュなどの高級車メーカーもたくさんあったのだが、これらの高級車には大排気量車を禁止するかのような高額な税金がかけられ、車もメーカーも自然に消滅してしまった。
プジョー、ルノー、シトロエンも例外では無く、戦前造っていたような高級車はもちろん、中級車さえ造れなくなってしまう。そんな状況の中、プジョーは203を、ルノーは4CV(のちの日野ルノー)を、シトロエンは2CVを造り、フランスの自動車メーカーは大衆車メーカーにチェンジする。今でこそ中型車も、高級車も、ミニバンも、SUVも造っているが、やはりフランス車といえば小型車と言われるのは、こういった背景があるからだ。実際にパリ市内など見ても小型車だらけである。
一方、フランス車はモータースポーツに輝かしい戦績を残している。まず、プジョーはグループBマシンで戦っていたころのWRCで、1985-1986年にかけて205T16で連勝、1993年のルマン24時間レースではCカテゴリーの プジョー905 が1-2-3フィニッシュを飾っている。
シトロエンはラリーが専門で、パリダカールラリーでは三菱ラリアートチームの前に常に立ちはだかり、1994-1996年にかけて3連勝を成し遂げている。最近ではセバスチァン・ローブがドライブする C4WRCラリーカー などのシトロエン車が2004年から8連覇中である。
ルノーといえばF1。1977年よりF1レースにチームとして、あるいはエンジンサプライヤーとして参加し、1992-1994年にかけて英国のウィリアムズにエンジンを提供、ウィリアムズ・ルノーとして3連覇。ドライバーはマンセル、セナ、プロストといった顔ぶれだった。
また、2005-2006年にはマイルドセブン・ルノーF1チームとして連勝、2011年からはロータス・ルノーとして参戦するが、2012年以降は再びエンジンサプライヤーとなり、ロータス、レッドブル、ケータハムに加えて再びウィリアムズにもエンジンを提供することとなった。

パリ市内、及び郊外で見かけたくるま達

管理人は別に自動車会社とは縁もゆかりも無いのだが、海外で日本の自動車を見ると、なんとなく嬉しくなってしまう。そんな訳で、今回はパリ市内やパリ郊外で見かけた日本車が中心のレポートとなってしまったが、悪しからず。
ホテル前に駐まっていたプジョー ion (三菱・i-MIVE) 。2010年より三菱自動車からOEM提供。EVはともかく、日本の軽自動車規格が、どれだけヨーロッパで受け入れられるか興味津々。なお、前後のバンパーはヨーロッパ仕様として強化されている。



A6号線を疾駆するマツダ3(アクセラ)



フランスの高速道路の制限時速は130km/h。しかし大抵の車は+20km/h位で走行している。片側3車線の道ではバスは中央寄りレーンは走れない。なお、写真の場所はパリから南へ向かう Auto Route 6号線 バルビゾン付近。時節柄、立ち並ぶ高圧線鉄塔の先には原発があるのだろうと思ってしまう。



バルビゾン村で見かけたプジョー207。205→206→207と正常進化した人気車。フレンチブルーがきれい。



ルノーメガーヌ。独特のテールデザインが面白い。



ルノーエスパス。大家族にはやはりミニバンは便利。



トヨタ・ヤリス(3代目ヴィッツ)、トヨタの世界戦略車。多分、フランス製。



ヒュンダイ・リオ。数は少ないが韓国車もときおり見かけた。



ヴェルサイユ宮殿の庭園内に、なぜかスズキ・ジムニーが。



シトロエンC4ピカソという名のミニバン。これもよく見かけた。右はルノーメガーヌ。



ルノー・トゥィンゴ(2代目)。ホンダ・トゥデイに触発され造ったというルノーのミニカー。



ホンダ・CR-X。オーベル・シュル・オワーズにて。



トヨタ・ラブフォー。パリ市内のでこぼこの車に較べれば、田舎の車はきれい。



ニッサン・マイクラ(マーチ)、ヨーロッパ・カー・オブザ・イヤーに初めて選ばれた日本車。



ニッサン・デュアリス、オーベル・シュル・オワーズにはやけに日本車が多かった。



ルノー・ウィンド、トゥインゴをベースにしたスポーティーカー。



パリ、リッツホテル前に駐まっていたフェラーリ・カリフォルニア。4.3L V8 460ps 2360万円



トヨタ・プリウスはたくさん見かけた。写真はTAXI仕様。20日に乗ったが快適だった。
なお、プリウスは2006年ヨーロッパ・カーオブザイヤーに選ばれている。



モンマルトルの道路は縦列駐車の車で埋め尽くされている。
なお、左側にホンダCR-V、右側にマツダMXEがいる。



アートバン? ヨーロッパのバンは、車体サイドにガラス窓が無いのでやりたい放題。



先頭の青い車はトヨタ・アイゴー。海外販売専用車。



同じくトヨタ・ヤリス(2代目ヴィッツ)



モンマルトルの縦列駐車。いったいどうやって駐車するのだろう。



こちらはスマート。こういう場所にはピッタリ。



とくにモンマルトルではスマートが多かったような。



バンパーは前の車を押すために存在する。



高そうなBMW同士でも遠慮なし。



モンマルトルというかパリではバンパーの弱い車は生き残れない。
写真はゴルフとスマートに挟まれたルノー・サンク。



観光客を押しのけて進むプジョー407TAXI。



アートバンその2



トヨタ・ヤリス(初代ヴィッツ)



バンパーはこんな感じ



トヨタIQ発見。日本ではあまり見かけないのにパリで出くわすとは。

エピローグ

1886年に自動車を発明したのはカール・ベンツだが、1891年に世界で初めて車を量産(4台)したのはプジョー。ルイ・ルノーが車造りを始めたのが1898年、シトロエンは少し遅れて1919年と、フランスのくるま史は1世紀に及ぶ。そんな訳で、フランスはまごうことなき車大国、車社会なのだが、何故か国民は少し覚めているような気がする。
たかが車、されど車とはよく言った言葉で、その国で一般的に使われている車を見ると、経済力や国民性、文化レベルなどがわかってしまう。中国・韓国などアジア各国では車はステイタスシンボル。アメリカ人には生活必需品。イギリス人にとって車は大事な家具。イタリア人にとっては人生をエンジョイするための手段。そしてフランス人にとってはサンダル代わりである。
1937年にトヨタ自動車工業が設立されてから75年、日本の自動車史も欧米の自動車史と比較しても遜色ないレベルになってきた。プリウスの世界的なヒットを見ても解るとおり日本の自動車も本当に良くなってきたと思う。今は休止しているが、F1やWRCなどのモータースポーツで欧米車を相手に大活躍もした。(この辺が韓国・中国車と違うところ)
しかし、日本では車をまだステイタスシンボルと捉える人も多く(高額の自動車税はその名残)、車の選び方、扱い方、そして使い方などを見ると、まだまだ及ばない面が多い。やはりヨーロッパは自動車先進国だなと2003年に続き、再び納得してしまうchiaki-kであった。

2012.05/09 chiaki-k 記す


OMAKE

2011年12月5日に、パリを含むIle de France (イル=ドゥ=フランス圏) でサービスを開始した、レンタカーサービス“Autolib’ (オートリブ)  Balloré社のBluecarという名称の車で、100%電気で動く車。駐車場不足、排気ガスによる大気汚染、交通渋滞、その問題を一気に解決できる切り札!と期待されている。パリナビより抜粋
1回の充電で250km走れるそうだが、もちろん化石燃料の節約にもなる。電気エネルギーは使うが、まあ、フランスは原発大国だから大丈夫なんだろう。なお、写真の撮影場所はモンマルトルのなんとエロチック・ミュージアム前。エロ&エコって両立するのか?(^^;;

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